Mind Science

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トラウマの恐ろしさは、意識の世界とは別の次元で存在し、無意識の領域から意識化されないまま私たちの“心”という領域に働きかけ、影響を与え続けているということです。
その影響のエネルギーを気付かないことが、意識化できないことが、問題を深刻なものへとしています。
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脳科学的な見方で説明すれば、意識とは(額の裏側の前頭葉の一部分の)前頭前野と呼ばれている脳の部位の働きで、成長過程において学習された様々な知識や経験によって総合的に理性的処理がされているところで作り出されています。
意識化すると表現されるときは、気づきという意味合いで使われます。
自己の脳内での働きの何かに気づくことを意識化と表現し、脳内で500ミリ秒(1秒=1000ミリ秒)以上継続された時に初めて前頭前野でそれを捕らえる(意識化する)ことができるのです。
また、無意識とは、脳の中心部の大脳辺縁系と呼ばれる扁桃体を中心とした脳の部位で、ここでの脳の働きの多くは意識化できる前頭葉には伝達されないのです。伝達されないということは、私たちはその脳部位での働きを自覚できません。自覚できないということは、そこでどんな働きかけが起こっていても気づくことなく生活しているということになります。
このように、私たちの脳機能の役割分担によって、意識と無意識の働きの違いが生まれるのです。
私たちの感情(情動)を作り出している脳機能の場所は、意識化ができにくい脳部位です。そしてそこが、トラウマの生息地でもあるのです。
私たちの脳の奥深くにある、扁桃体と呼ばれる部位に胎児期から蓄積された感情の記憶(情動記憶)が存在しています。
トラウマとしての記憶は、そのエピソード(出来事)から切り離され、情動記憶との統合が断ち切られ、無意識に影響を与え続ける場合が多いのです。
前頭連合野は、前頭前野とも呼ばれちょうど“おでこ”の部分ですが、ここは生まれてからずっと親子関係を含めた環境から多くのことを学習して記録されています。だからもし、その環境に問題があり、子供時代に不満や葛藤などの満たされない感情や虐待などの強い苦痛を味わった場合、無意識の領域の神経ネットワークに刺激による条件付けがなされていきます。この多くの条件付けられた回路が、ある環境の中で刺激され反射的に働き始めます。
この時点で、本来は無意識領域の情動系での反応を意識が察し、不適格な反応と判断したら制御をかけるのですが、トラウマがらみの条件反射による情動系の混乱は理性の場である先頭連合やではどうすることもできなくなるということがわかっています。
適切な心理療法が必要だといっているのは、表現を変えれば、理性の場である前頭連合野が不適格な情動系の混乱や暴走に対し、正しくコントロールすることができる力を取り戻してやるためなのです。
そのためには、無意識内で反応している条件反射としての混乱は、こういった過去の出来事による学習の結果であり止めなければいけないということを理解させることです。
退行催眠療法の価値はここにあります。意識の場が、理性的に因果関係を捉えることができ、本来どうあるべきかの的確な判断ができるようになれば、無意識の混乱は収まり、結果症状が治っていくのです。もちろん脳自体のダメージの回復を待つ時間も必要です。
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それでは、ストレスにおける内分泌システムについて簡単に説明します。
私たちは、ストレスによって脳の視床下部が活性化し、CRF(CRH)という物質を放出し、それによって脳下垂体がACTHを血中に放出します。これが副腎に届き副腎皮質前葉からストレスホルモンと呼ばれる糖質コルチコイド(コルチゾールが代表例)が放出されます。一般にHPA軸と呼ばれる反応で、ストレス時の視床下部―下垂体前葉―副腎軸の興奮とフィードバック調節のことです。
 重要なのはこれからです。もし、私たちの心理的な悩みが長期化したとき、たとえば、トラウマの原因として深くかかわっている、両親の愛情に満足できないで不満を引きずり過ごしている子どもや職場で思うように業績が上がらない仕事の問題や、人間関係の解消されない問題で苦痛を抱えている社会人は、この慢性的なストレスにより、血中のコルチゾールの濃度が高くなったまま過ごすことになります。そうなれば、脳内の高濃度のコルチゾールは海馬や扁桃核の細胞を壊していきます。これがトラウマに関連した心の症状を作り出す原因なのです。もちろん実際の身体・脳内での生理反応はもっと複雑です。基本的に私たちの身体はストレスに対処する力を備えています。しかし、その力さえストレスホルモンが多く放出され続けると破壊されていくのです。それは、血中のコルチゾールの濃度を脳の視床下部と下垂体でモニターし過剰分泌にならないように調整するフィードバックシステムがあります。しかしモニターしている視床下部のコルチゾール受容体が高濃度のコルチゾールによって破壊され正しくモニターされなくなります。しかも、毎日の持続されたストレスの苦痛の感情は扁桃核を中心とした辺縁系からの情動や不安のシグナルが視床下部に送られ続くので、視床下部からはCRFが出続け、そのために下垂体はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を出し続け、副腎皮質からはストレスホルモンが出続けるという悪循環に見舞われるのです。この高濃度のコルチゾールは視床下部のみならず、海馬や扁桃核周辺の組織も破壊していきます。
 このように、人の脳はトラウマによりダメージを受けているのです。だから、
私たちは、少しでも早くストレスに対する対処の方法を身につけなければなりません。
 さらに言えることは、脳内での視床下部への刺激は、ANSの交感神経をも混乱させ、自律神経失調症によるさまざまな身体症状を作り出します。パニック障害における発作の症状はまさに長期のストレスによる交感神経系の誤作動により身体症状といえるのです。だから、症状がどんなにひどくとも一時多岐な発作で死ぬということは絶対に起こらないのです。